ガイドラインを徹底解説します!!

でも、その前に…

私たち「いえあーる」が運営するこの「いえロボホームページ」は、インスペクションを様々な角度で捉えることにより、一般消費者の皆さんに、できるだけわかりやすく伝えることを目的としています。

国土交通省が定めた「既存住宅インスペクション・ガイドライン」や「既存住宅状況調査技術者講習登録規定」・「既存住宅状況調査方法基準」は、インスペクションの目的や実施方法などについて詳しく記述されたものですが、それらが必要とされる背景を知らずして、正しく理解し前向きに運用するのは困難だと思われます。

ちょっと小難しい話になりますが、ここでは、今までとこれからの住宅施策を読み解くところからスタートし、どのような順番で法整備や計画策定が為されてきたのか、改めて確認していきたいと思います。

 

 

私たちの住生活を左右する「住生活基本法」とは?

法律は、社会を維持するために守らなければならない規則です。それを犯すと注意を受けたり処罰されたりするもので、身近なところで言えば「道路交通法」などが思い浮かびますよね。同じように、私たちが無意識に送っている住生活においても、実は法律があります。それが「住生活基本法」です。

住生活基本法は、国民の豊かな住生活の実現を図るため、住生活の安定の確保及び向上の促進に関する施策について、その基本理念、国等の責務、住生活基本計画の策定やその他の基本となる事項について定められたものです。以前は、国民の住生活を適正な水準に安定させるため「住宅建設五箇年計画(昭和41年度より8次にわたり策定:8次計画は平成17年度で終了)」を定め、人口の著しい都市集中や世帯の細分化等による住宅需要の増大に対し、ひたすら住宅を供給することに力を注いできました。

が、ここにきて私たちの住む日本は、住宅ストックの量の充足や、本格的な少子高齢化と人口・世帯減少など、社会経済情勢の著しい変化に見舞われます。量から質へ、舵を切る時代の到来です。これからの住生活を根本的に見直し、立て直すため、平成18年6月に「住生活基本法」が公布施行されました。

同法では、新たな住宅政策への転換を図るため、住生活の安定の確保及び向上の促進に関する施策が打ち出されています。中でも重要なものは、「安全・安心で良質な住宅ストック・居住環境の形成」と「住宅の取引の適正化、流通の円滑化のための住宅市場の環境整備」です。これらを実現するため、おおむね5年毎に策定されるのが「住生活基本計画」と言われるものです。この計画は、国土交通省が策定する全国計画と、それに即して各地で策定される都道府県計画があります。日本全国どこに住んでいようとも、同法で定められた理念を実現するための計画下にあるというわけですね。

 

 

「住生活基本計画(全国計画)」にはどんなことが盛り込まれているのか

「住生活基本法」に基づき「住生活基本計画」が平成18年から策定されるようになりました。おおむね5年ごとに改定されており、令和元年の現在は、平成28年に策定されたものを指針として、豊かな住生活を実現するための様々な施策が実施されています。

インスペクションに関することが議論され基準が定められる足掛かりとなったのは、一つ前の平成23年に策定された住生活基本計画です。ここには、どのようなことが盛り込まれているのでしょうか?ちょっとかいつまんで見てみましょう。

 

まず、いくつかある目標の中に、「多様な居住ニーズが適切に実現される住宅市場の環境整備」というものがあります。

これは、国民一人一人が、それぞれの価値観及びライフスタイルやライフステージに応じ、無理のない負担で安心して選択できる住宅市場の実現を目指すというものです。その為に求められることは、良質な既存住宅の資産価値が適正に評価され、その流通が円滑に行われるとともに、国民の居住ニーズと住宅ストックのミスマッチが解消される循環型の住宅市場の実現です。

とは言うものの、その当時は、既存住宅流通市場及びリフォーム市場に関する情報不足等によって消費者の不安は増大傾向にあり、健全な不動産取引やリフォームによる快適な住まいの実現がままならないという現実がありました。社会全体が豊かな住生活の実現に踏み出すためには、まずは消費者一人ひとりの不安を取り除くことが先決です。そのために打ち出された施策の一つが「既存住宅インスペクションに対する信頼の確保と円滑な普及」なのです。

もともと建築業界の中では、リフォーム前の状況調査というものは当たり前に行われていました。ただ、それらは局所的な工事を適切に行うための事前調査に過ぎず、建物全体の劣化状況を把握して維持管理に努めるというような理念に基づくものではありませんでした。調査を行う目的もバラバラですし、調査方法や診断レベルもまちまちです。ただ、業界内に調査という業務の素地があったことだけは確かであり、その延長線上に、建物全体を調査するというインスペクションの概念が育ち始めます。国土交通省はこの自然発生的な民間会社の活動を基盤に、新たな基準を設けて、インスペクションに対する信頼確保と円滑な普及に乗り出したのです。

その後、平成25年6月に策定されたのが「既存住宅インスペクション・ガイドライン」です。

平成28年には宅建業法の改正が行われ、平成30年4月以降、説明すべき重要事項としてインスペクションに関する項目が明記されるようになりました。不動産取引時のインスペクションは、ガイドラインで言うところの一次的なインスペクションに位置しており「建物状況調査」と呼ばれています。平成30年4月以降の運用を前に、国土交通省は、平成29年2月には「既存住宅状況調査技術者講習登録規定」を定め、「建物状況調査」の担い手となる技術者の育成と資格の付与を行う仕組みを確立しました。時を同じくして「既存住宅状況調査方法基準」も定められました。これは、調査の適正な実施を図るため、調査方法の基準について定めたものですが、国土交通省が発表した解説文には、「既存住宅状況調査の普及を進めるためには、まずは公正かつ適格な調査の実績を積み上げ、既存住宅状況調査について国民の信頼を得ていく必要がある。」と書かれています。インスペクションは、壮大な構想の底辺を支えるとても重要なことだということが、この文面から伝わってきませんか?

日本社会における住生活を根本から変革するために、公正で目的に合ったインスペクションを積極的に実施することが、私たち事業者に課せられた使命なのです。