インスペクションにおける状況調査

状況調査は、構造部門、雨水部門、設備部門に大別され、それぞれの視点で建物の現状を調査します。必要に応じて診断器具を活用することもあります。床下や天井裏への進入調査は求められませんが、それらを自主的に行うことは重要です。現状をより正しく把握することができますので、可能な限り積極的な調査を心がけています。

状況調査(構造部門)

基礎

基礎コンクリートの劣化や鉄筋の腐食発生の可能性について調査します。

① 幅0.5mm以上のひび割れや深さ20mm以上の欠損

空気や水分の浸入により鉄筋の腐食を発生させる要因となることが予想され、放置するとコンクリート躯体の劣化が促進する恐れがあります。

 

② コンクリートの著しい劣化

幅0.5mm未満のひび割れや深さ20mm未満の欠損が広範囲に及ぶ状態は、既に劣化が生じている可能性があります。

 

③ さび汁を伴うひび割れ又は欠損、鉄筋の露出

ひび割れが鉄筋まで到達しているために浸入した水によりサビを促進させていることが懸念されます。鉄筋が露出している状態では劣化は免れず、内部にまで及ぶ可能性大です。 


土台・床組・柱・梁・小屋組

構造材(木部)の状況について調査します。

 

① 著しいひび割れ、劣化または欠損

木造住宅における構造材は骨組みにあたり、各部材には耐力を保持するために必要とされる断面寸法があります。著しいひび割れや劣化、断面欠損等がある場合は、構造耐力上の観点から劣化事象に値します。

 

② 柱の、6/1000以上の勾配の傾斜

柱の傾斜が6/1000以上の場合は、施工精度を考慮した上でも明らかに注意が必要な状態です。基礎の沈下や柱・梁等の構造部材の傾斜等が生じている可能性もあり、重大な劣化事象に該当します。

 

③ 梁の著しいたわみ

床や天井の浮きや沈みに影響を及ぼすほどたわんでいる梁は、構造耐力上の観点から劣化事象に該当します。


外壁及び軒裏

外壁及び軒裏の、ひび割れまたは欠損等の有無を目視等により調査します。対象は、外周部及びバルコニーから目視可能な範囲です。

① 下地材まで到達するひび割れ、欠損、浮き、剥落など

仕上材から下地材まで連続したひび割れ等が生じている状態は、雨水浸入等により構造部材の劣化を促進させる要因となることが想定されます。 

 

② 複数の仕上材にまたがったひび割れや欠損

構造部材の劣化に伴って生じている可能性が高いため、構造耐力上の観点から劣化事象に該当します。

 

③ 金属の著しいサビまたは化学的侵食

劣化した金属製の外壁や水切からの雨水浸入により、構造部材の劣化を促進する可能性が想定されます。

 

④ 仕上材の著しい浮きなど

本来の仕上げ面からせり上がり、膨らんで浮いている状態は、目地等の劣化を招き雨水浸入を引き起こす可能性があるため、構造耐力上の観点から劣化事象に該当します。 


バルコニー

構造部門-バルコニー及び共用廊下。ぐらつきやひび割れ、劣化等の有無を目視等により調査します。

① 支持部材の劣化事象

支持部材とは、バルコニーを構成している柱、梁、根太などの構造耐力上主要な部位のことです。ぐらつきや著しいひび割れがある場合は、劣化事象に該当します。

 

② 床の劣化事象

床面に、著しいひび割れまたは劣化が生じている状態は、構造耐力上の観点から、劣化事象等に該当します。

 

※金属製手摺の劣化は劣化事象とする必要はありません。ただ、笠木手摺部分のコーキング切れや接合部からの雨水浸入は、構造躯体に劣化を及ぼす可能性があるので注意が必要です。


床・壁・天井

内部壁、天井に現れる劣化事象を調査します。

① 床材または、壁・天井の合板、ボード、その他の下地材

ひび割れや欠損、浮き、はらみ、剥落がある場合は、劣化事象に該当します。

 

② 床の沈みや傾斜

著しい沈みや、6/1000以上の勾配の傾斜は劣化事象に該当します。

 

③ 壁の傾斜や天井のはらみ

柱の傾斜が壁の傾斜を引き起こします。また、荷重に対する梁せい不足が天井のはらみを引き起こすことがあります。表面的な事象を捉え、構造躯体の劣化を想像することも大切です。


蟻害・腐朽

構造各部位の蟻害・腐朽の有無を調査します。

① 著しい蟻害

木部構造体に白蟻の被害が直接確認できる状態は、建物全体の耐力が一定程度低下している明確な証拠です。早急に手当てが必要な劣化事象と捉えられます。

 

② 著しい腐朽

木部構造体に腐朽の被害が直接確認できる状態も、蟻害同様、耐力低下を招く要因となることから劣化事象と捉えられます。

 

なお、床下の状況に関しては、白蟻業者に定期的な点検を依頼し、継続したメンテナンスが有効です。


鉄筋の有無・圧縮強度

非破壊検査機器を用いた調査を行います。

 

① 鉄筋の有無

基礎における鉄筋の本数及び間隔について調査します。基礎の立上り部分について、電磁波レーダ法または電磁誘導法により調査します。

 

② 圧縮強度

基礎コンクリートの圧縮強度について調査します。シュミットハンマーで複数回打診し、平均値を求めます。


状況調査(雨水部門)

外壁・軒裏

雨漏り・水漏れの発生に注意すべき外壁・軒裏の、仕上げ材等の劣化や欠損等を目視により調査します。

 

① シーリング材や防水紙の破断、欠損

サイディングの継ぎ目や建具回りのシーリング材の破断は、雨水浸入を招く危険性が高いため劣化事象等に該当します。

 

② 外壁材表面の状況

表面の汚れや藻の発生は、防水性能の劣化を招く可能性があります。

 

③ モルタル外壁のひび割れ

モルタル壁の場合、表面のひび割れは雨漏りの原因に直結する可能性が高いので、劣化事象等に該当します。

 

④ 屋外に面する建具の、隙間や破損、開閉不良

外部建具の不具合は雨水浸入発生の原因になりやすいので劣化事象と捉えられます。天窓も調査対象ですが、室内からの目視確認のみ行います。

 

⑤ 軒裏天井の雨漏り跡

周辺部の構造部材の劣化を促進させる要因と想定されるため、劣化事象等に該当します。


バルコニー

雨漏りに繋がりそうな劣化事象を目視で確認します。

① 防水層の著しいひび割れ、劣化、欠損

バルコニー床面の防水層が破断し、下地材まで到達している状態、または防水層の端部剥離により口が大きく開いている状態などは、雨漏りの原因になる可能性があります。

 

② 水切金物等の不具合

外壁と笠木等との取り合いや、防水層の立上り端部の水切り金物等の不具合は、雨漏りの被害が生じる恐れが想定できるので劣化事象等に該当します。また、水切金物端部のシーリング処理に関しても、破断や欠損がないか確認が必要です。

 

③ 内樋の掃除も大事なポイント

直接的な劣化事象ではありませんが、樋のつまりは雨漏りを招く要因になり得ます。内樋やドレイン廻りの清掃を心がけることも大事なポイントです。


内壁・天井

内壁や天井に雨漏りの跡がないか目視で確認します。

 

① 外壁側の壁、特に外部天井やバルコニー床との取り合い部分や開口部廻り

雨漏りしやすい箇所です。雨漏り跡が確認された場合は、周辺部の構造部材の劣化を促進させる要因と想定できるため、劣化事象等に該当します。

 

② 天井部分、特に2階外壁ライン直下や屋根の谷がある部分など

天井に雨漏りの後が確認されることは、周辺部の構造部材の劣化を促進させる要因と想定できるため、劣化事象等に該当します。


小屋組

小屋裏点検口から目視で雨漏り跡の有無を確認します。

① 雨漏りの跡

小屋組に雨漏りの跡が確認されることは、周辺部の構造部材の劣化を促進させる要因と想定できるため、劣化事象等に該当します。

 

② 屋根形状に注目する

ドーマーや天窓、煙突などの取り合い部は、劣化事象等が生じやすいため注意が必要です。また、屋根形状が複雑で谷がある場合は、雨漏りリスクが高い建物と考えられます。


屋根

屋根仕上げ材等の劣化や欠損を目視により調査します。

① 屋根葺き材の著しい破損、ずれ、浮き、はがれ、劣化等

本来あるべき位置から移動した屋根葺き材や、その結果露出している下地材等は、雨水浸入による劣化促進の原因となる可能性があるので劣化事象等に該当します。

 

② 防水層の著しい劣化または水切金物等の不具合

防水層の破断あるいは防水層端部金物やシーリング材が破損して、当該部分が大きく開いている状態は、雨水浸入による下地材等の劣化が促進されるため劣化事象等に該当します。

 

屋根形状が複雑なものは取り合い部分が多くなるのでリスクが高くなります。特に谷板金の不具合は雨漏り原因になる可能性が高い劣化事象です。


状況調査(設備部門)

給水管・給湯管

給水管、給湯管における赤水や漏水を目視調査します。

① 給水管、給湯管の発錆による赤水

水栓から赤水が確認された場合、水道設備の保全不良により飲料に適した水を供給していない状態と想定されるため、劣化事象等に該当します。

 

② 給水管、給湯管からの漏水

器具及び接続部分において、漏水、または漏水の痕跡が観察された場合には、漏水量の多少にかかわらず劣化事象等に該当します。

 

③ 腐食や変形等

配管や配管接続部に腐食や変形等が確認された場合は劣化事象等に該当します。

 


④ 水道メーター

針の動きを観察し、漏水の事象がないか確認する

(専用の器具を使い、漏水音を確認する方法もあります。)


排水管

排水管における詰まりや漏水を目視等で調査します。

① 設備機器の排水状況

便器内の異常な水面上昇はないか、シンク内の排水の滞留がないかなど、実際に水を流して確認します。

(左写真は屋外排水桝の様子。キッチン排水から出る油分が凝固し排水つまりを引き起こすこともあります。)

 

② 排水配管接続部分からの漏水

排水漏れ痕跡の有無を確認し、床下地等に影響がある場合は劣化事象とみなします。


換気ダクト

換気ダクトの脱落を目視により調査します。

① 換気ダクトの状況

ユニットバスやキッチンの換気設備について調査します。点検口等から天井裏をのぞき込むことにより、換気ダクトの状況を確認します。

 

② 脱落や接続不良

換気扇やダクトが脱落し接続不良となっている状態や、支持金物等が外れた状態は、機械換気設備の機能が損なわれる恐れが想定されるため、劣化事象等に該当します。


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